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映画『乱』あらすじと感想を徹底解説!黒澤明が描いた壮絶な親子の悲劇とは

映画『乱』とは?黒澤明が10年の構想を費やした不朽の名作
映画『乱』は、世界的巨匠・黒澤明監督が1985年に発表した日仏合作の時代劇映画です。
シェイクスピアの四大悲劇の一つ『リア王』と、戦国武将・毛利元就の「三本の矢」の逸話を融合させ、戦国時代を舞台に繰り広げられる壮絶な家族の悲劇を描いています。
構想10年、製作費26億円という当時の日本映画史上最大規模のプロジェクトとして制作された本作は、第58回アカデミー賞衣裳デザイン賞をはじめ、国内外で数々の映画賞を受賞しました。
上映時間は162分と長尺ですが、その壮大なスケール感と圧倒的な映像美、そして人間の業を描き切った深いドラマ性は、観る者を最後まで飽きさせることがありません。
黒澤明監督自身が「人類に対する遺言」と語ったこの作品は、公開から40年近く経った現在でも色褪せることなく、世界中の映画ファンから愛され続けているんですよ。
映画『乱』の基本情報とキャスト
作品データ
製作年は1985年、上映時間は162分です。
監督は黒澤明、脚本は黒澤明・小国英雄・井手雅人が担当しています。
音楽は武満徹、衣装デザインはワダエミが手がけました。
特にワダエミによる衣装デザインは、鮮やかな色彩と緻密なディテールで世界中から絶賛され、アカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞しています。
豪華キャスト陣
主人公の一文字秀虎を演じるのは、黒澤作品の常連である名優・仲代達矢です。
当時49歳だった仲代は、70歳の老武将を演じるために毎日4時間ものメイクアップ時間を要したといいます。
長男・太郎孝虎役には寺尾聰、次男・次郎正虎役には根津甚八、三男・三郎直虎役には隆大介が配されました。
太郎の正妻で復讐の鬼と化す楓の方役には原田美枝子、次郎の正妻で仏を信じる末の方役には宮崎美子が演じています。
さらに、狂阿弥役のピーター、藤巻役の植木等など、個性的な俳優陣が脇を固めています。
映画『乱』のあらすじを徹底解説(ネタバレあり)
ここからは、映画『乱』のストーリーを段階的にご紹介していきます。
結末まで詳しく解説していますので、ネタバレを避けたい方はご注意くださいね。
あらすじ【起】家督相続と三郎の追放
過酷な戦国時代を生き抜き、三つの城を築き上げた猛将・一文字秀虎は、70歳を迎えて隠居を決意します。
巻狩りの席で秀虎は、長男・太郎に家督と一の城を、次男・次郎に二の城を、三男・三郎に三の城を譲ると宣言しました。
秀虎は三本の矢を手に取り、「一本の矢は簡単に折れるが、三本束ねれば折れない」と説き、兄弟の結束を説きます。
しかし、正直者の三郎だけは父の決断に真っ向から反対しました。
「父上は耄碌されたのか」と言い放ち、三本の矢を無理矢理へし折った三郎は、やがて兄弟間で血で血を洗う争いが起きると予言します。
激怒した秀虎は三郎を勘当し、側近の平山丹後とともに追放してしまいました。
ところが、一部始終を見ていた隣国の領主・藤巻は、三郎の誠実さを高く評価し、娘の婿養子として迎え入れたのです。
あらすじ【承】息子たちの裏切りと秀虎の絶望
家督を継いだ太郎でしたが、正妻の楓の方に操られるようになります。
楓の方は、かつて秀虎に一族を滅ぼされた過去を持ち、一文字家への復讐を密かに企んでいました。
彼女の策略によって、太郎は秀虎から一文字家の馬印や大殿の格式までも奪い取ってしまいます。
一の城を追われた秀虎は、次男・次郎が治める二の城へと向かいました。
二の城で秀虎は、次郎の正妻・末の方と対面します。
末もまた楓と同じく秀虎に家族と城を奪われた過去を持っていましたが、彼女は仏を信じ、決して秀虎を憎もうとはしませんでした。
その姿に秀虎は初めて自らの罪の重さを感じ始めます。
しかし次郎もまた、権力欲に駆られて秀虎の側近たちを追い出そうとしました。
実の息子たちの裏切りに絶望した秀虎は、やむなく三の城へと向かうことになります。
あらすじ【転】三の城の戦いと秀虎の狂気
三の城に到着した秀虎でしたが、そこで待ち受けていたのは太郎と次郎の軍勢でした。
秀虎の側近である生駒と、太郎の側近である小倉が密かに結託し、秀虎を罠にはめたのです。
凄惨な戦いが繰り広げられる中、次郎の側近・鉄の策略により太郎が狙撃され命を落とします。
秀虎が連れていた家臣や侍女たちは次々と討たれ、城内は血の海と化しました。
自刃を試みる秀虎でしたが、太刀が折れていたため死ぬこともできません。
すべてを失い、正気を失った秀虎は、亡霊のような姿で戦場をさまよい歩き始めました。
その異様な姿に、敵兵も次郎でさえも手を出すことができず、秀虎は戦場を後にします。
忠臣の丹後と道化役の狂阿弥が秀虎を発見し看病しようとしますが、立ち寄った民家には末の弟・鶴丸が住んでいました。
鶴丸はかつて秀虎に目を潰されて失明させられた過去があります。
過去の罪業に苛まれた秀虎は、再び家を飛び出してしまいました。
あらすじ【結末】三郎の死と一文字家の滅亡(ネタバレ)
一方、太郎の死を知った楓の方は、次郎に短刀を突きつけ、自分を正妻にすること、そのために現在の正妻・末を暗殺することを命じます。
鉄は命令に背いて末の命を助け、代わりに狐の石像の首を包んで楓に渡しました。
助けられた末は弟の鶴丸とともに秀虎のもとへ向かいますが、秀虎はまたしても逃げ出してしまいます。
丹後から父の窮状を聞いた三郎は、軍を率いて秀虎の救出に向かいました。
国境で次郎の軍と対峙する三郎でしたが、その背後には藤巻と綾部の軍も控えています。
楓の方に操られた次郎は、鉄の進言を無視して軍を進めてしまいました。
三郎はついに秀虎と再会を果たします。
正気を取り戻した秀虎は己の過ちを詫び続け、三郎はそんな父を赦し、親子はようやく和解することができました。
しかし直後、三郎は次郎が仕向けた鉄砲隊に撃たれて命を落としてしまいます。
「他には何もいらぬ」と語っていた最愛の息子の死に、秀虎も力尽きて息を引き取りました。
次郎の軍は、囮に騙されて綾部の大軍に一の城を攻め落とされます。
一文字家の滅亡を見届けた楓の方は、鉄によって首をはねられました。
戦場から秀虎と三郎の亡骸が運び出される中、三の城の跡には帰らぬ姉・末を待ち続ける盲目の鶴丸の姿がありました。
彼が誤って落としてしまった絵巻には、後光に照らされた仏が美しく描かれていましたが、もう二度と拾うことはできないのです。
映画『乱』の感想と見どころ
圧倒的なスケール感と映像美
『乱』の最大の魅力は、何といっても圧倒的なスケール感と美しい映像表現にあります。
製作費26億円という巨額の予算をかけて制作された本作は、大分県の飯田高原や由布市庄内町で3ヶ月近い長期ロケを敢行しました。
最盛時には1200人ものエキストラが集結し、撮影のために建てられた城のセットは実に4億円もかけたと言われています。
黒澤監督は複数台のカメラを使用し、ワンシーンワンカットで迫力ある戦闘シーンを撮影しました。
特に三の城での合戦シーンは圧巻で、血と炎に包まれた城内を正気を失った秀虎がさまよい歩く姿は、まさに地獄絵図そのものですよ。
ワダエミによる衣装デザインの芸術性
アカデミー賞を受賞したワダエミの衣装デザインも、本作の大きな見どころです。
太郎の黄色、次郎の赤、三郎の青と、三兄弟それぞれに色分けされた軍装は、戦闘シーンにおいて視覚的な美しさと分かりやすさを両立させています。
楓の方の艶やかな着物や、秀虎の老いた武将としての威厳を感じさせる装束など、細部まで計算し尽くされたデザインは、まさに芸術作品と呼ぶにふさわしいでしょう。
仲代達矢の圧倒的な演技力
主演の仲代達矢の演技は、まさに鬼気迫るものがあります。
49歳で70歳の老武将を演じるために、毎日4時間ものメイクアップ時間をかけたという仲代は、権力者としての威厳から、息子たちに裏切られた絶望、そして狂気へと堕ちていく過程を見事に演じ切っています。
特に正気を失った後の虚ろな表情と、三郎との再会で正気を取り戻す場面の演技は圧巻ですよ。
シェイクスピア『リア王』との巧みな融合
本作のもう一つの魅力は、シェイクスピアの『リア王』を戦国時代の日本に見事に翻案している点です。
原作の『リア王』では三人の娘でしたが、『乱』では三人の息子に変更されています。
また、楓の方と末の方という対照的な二人の女性キャラクターを追加することで、復讐と赦しというテーマがより鮮明に描かれています。
黒澤監督は『蜘蛛巣城』でも『マクベス』を翻案しており、「現代の映画界におけるシェイクスピア」とスティーヴン・スピルバーグから評されていました。
人間の業と無常観を描く深いテーマ
『乱』が単なる時代劇アクション映画ではなく、世界中で評価される理由は、その深いテーマ性にあります。
過去に無慈悲な行いを繰り返してきた秀虎が、老いとともにその報いを受ける姿は、因果応報という仏教的な世界観を体現しています。
楓の方のように憎しみに囚われて復讐を遂げた者も、末の方のように仏を信じて赦した者も、結局は同じように悲劇的な最期を迎えるのです。
ラストシーンで鶴丸が落とした仏の絵巻は、人の世のあまりの無常さに、神仏でさえも救う術がないことを象徴しているんですね。
黒澤監督自身が「人類に対する遺言」と語ったこの作品には、戦争や権力闘争を繰り返す人間への痛烈な批判と、深い悲しみが込められています。
黒澤明自身を投影した秀虎という存在
興味深いことに、黒澤明監督は本作の主人公・秀虎に自分自身を投影していると公言しています。
一文字家の家紋は「太陽」と「月」を模したものですが、これは黒澤の名前「明」を「日(太陽)」と「月」に分けたものだと言われています。
『羅生門』『七人の侍』など数々の名作を生み出しながらも、高額な製作費のために映画を撮ることが困難になっていた黒澤監督。
前作『どですかでん』の興行的失敗後、1971年には自殺未遂を起こしたこともありました。
老いゆく中で周囲に疎まれ、最後には何もかもを失うリア王と秀虎の姿は、当時の黒澤監督自身の心境と重なっているのかもしれませんね。
映画『乱』の制作秘話とトリビア
10年越しの企画と巨額の製作費
『乱』の企画は1975年頃から始まり、実に10年の歳月をかけて実現しました。
製作費26億円は当時の日本映画としては破格の金額で、日本国内だけでは資金調達が困難だったため、フランスとの合作という形で製作されています。
前作『影武者』の成功により、フランシス・フォード・コッポラやジョージ・ルーカスといったハリウッドの巨匠たちの支援も受けることができました。
大分県でのロケーション撮影
1984年7月中旬から3ヶ月近くにわたり、大分県の九重町飯田高原と由布市庄内町で撮影が行われました。
黒澤監督以下145人のスタッフと180人の俳優、最盛時には1200人のエキストラが集結し、緑豊かな高原一帯で戦国時代の合戦絵巻が撮影されました。
三の城の炎上シーンでは、実際に4億円かけて建てたセットを燃やすという贅沢な撮影が行われたんですよ。
興行的には赤字も評価は最高レベル
日本国内での配給収入は16億7000万円で、1985年の邦画配給収入では3位を記録しました。
しかし製作費26億円のため、残念ながら資金回収はできず巨額の赤字となってしまいました。
それでも海外での評価は非常に高く、アカデミー賞衣裳デザイン賞、英国アカデミー賞外国語作品賞、全米映画批評家協会賞作品賞など、国内外で多くの賞を受賞しています。
映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では批評家支持率97%、平均点8.98/10という極めて高い評価を獲得していますよ。
映画『乱』はどこで視聴できる?VOD配信サービス情報
主要な動画配信サービスでの配信状況
映画『乱』を視聴したい方のために、主要な動画配信サービスでの配信状況をご紹介します。
Amazon Prime Videoでは、レンタルまたは購入で視聴可能です。
Huluでは見放題配信されている時期もありますので、チェックしてみる価値がありますよ。
U-NEXTでもレンタル配信されていることが多く、初回31日間無料トライアルを利用すれば、付与されるポイントを使ってお得に視聴できる可能性があります。
TSUTAYA DISCASの宅配レンタルサービスでも取り扱いがありますので、DVDやブルーレイで鑑賞したい方にはこちらもおすすめです。
4Kリマスター版での鑑賞がおすすめ
近年、『乱』の4Kリマスター版が劇場公開されたり、ブルーレイで発売されたりしています。
黒澤明監督のこだわり抜いた映像美を堪能するなら、ぜひ4Kリマスター版での鑑賞をおすすめしますよ。
配信サービスによっては高画質版が選択できる場合もありますので、視聴前に確認してみてくださいね。
こんな人におすすめの映画『乱』
『乱』は以下のような方に特におすすめの作品です。
黒澤明監督の作品が好きな方、あるいは世界的な名作映画に触れたい方には必見の一本でしょう。
シェイクスピア作品が好きな方、特に『リア王』を知っている方なら、日本の戦国時代への翻案がどれほど見事に行われているかを楽しめます。
時代劇が好きな方、壮大なスケールの戦闘シーンを観たい方にとっても、本作は間違いなく満足できる内容です。
人間ドラマの深い作品を好む方、哲学的・思想的なテーマを持つ映画に興味がある方にもぴったりですよ。
また、映画の美術や衣装デザインに関心がある方なら、ワダエミのアカデミー賞受賞衣装を堪能できます。
まとめ:映画『乱』は時代を超えて語り継がれる不朽の名作
黒澤明監督が10年の構想と26億円という巨費を投じて完成させた『乱』は、シェイクスピアの『リア王』を戦国時代に翻案した壮大な人間ドラマです。
老武将・一文字秀虎が息子たちに裏切られ、すべてを失いながら狂気へと堕ちていく姿を通して、人間の業と無常観が描かれています。
圧倒的なスケール感と映像美、ワダエミのアカデミー賞受賞衣装、仲代達矢の鬼気迫る演技、そして深いテーマ性は、公開から40年近く経った今でも色褪せることがありません。
興行的には赤字に終わったものの、海外での評価は極めて高く、世界中の映画ファンから愛され続けています。
黒澤監督が「人類に対する遺言」と語ったこの作品は、戦争や権力闘争を繰り返す人間への警鐘として、これからも語り継がれていくことでしょう。
まだ観たことがない方は、ぜひ動画配信サービスなどで鑑賞してみてくださいね。
人間の愚かさと哀しさ、そして世の無常を描いた本作は、きっとあなたの心に深く残る体験となるはずですよ。
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